郷土志料目録 [昭和4年3月末日現在] (きょうどしりょうもくろく)

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概要・解説文

『沖縄県立図書館 郷土資料目録』昭和4年(1929)版  解説

 沖縄県立図書館(以下、県立図書館)の所蔵資料・書籍は全て沖縄戦(1945年)により失われてしまいました。その数は三万冊以上とみられています。宮古・八重山にあった図書館の資料もやはり大きな被害を受け、蔵書がバラバラになりました。県立図書館では、貴重な郷土資料の一部を、戦禍(せんか)に巻き込まれる可能性が低い北部地域(当時の羽地村 はねじむら)へ避難させましたが、それらも混乱の中で失われてしまったのです。建物も数度の空襲で全壊しましたから、まさに全てが失われた、という状況でした。

 そういう歴史を踏まえてこの郷土資料目録を見ていくと、掲載されている貴重資料の多くが、現在の県立図書館にもあらためて所蔵されているのには驚かされます。それは一つには、歴史家・東恩納寛惇(ひがしおんな・かんじゅん)により収集され、戦災をまぬがれた膨大な貴重資料が、財団法人・東恩納寛惇文庫を経て、県立図書館へ移管されたことが大きいようです。古い時代の多くの貴重本や、失われた石碑の拓本などが現在、あらためて県民の財産として図書館に所蔵されているという現状は奇跡的といえるでしょう。その他にも、比嘉春潮(ひが・しゅんちょう)ら多くの歴史家・郷土史家らの寄贈がありました。また県内外や海外からの沖縄出身者や、国内外の有志による寄贈も現在の県立図書館の膨大な貴重資料の一部となっています。

 一方で、この目録には、毛筆で書かれた首里王府の行政文書類や、琉球国王や中国からの外交使節らによる書画類など、唯一の原本(げんぽん)とみられる資料も数多く見られます。こうした原本資料の一部は写真や筆写本として県立図書館を含む諸機関に残っていますが、原本そのものが失われているのは何とも残念です。原本はどんなに精巧な複製品によっても替えられない歴史的・文化的価値があるからです。

 県立図書館は1901年に有志らによりその原型がかたち作られ、1910年に正式に沖縄県立図書館として発足しました。初代館長は「沖縄学の父」とも呼ばれる伊波普猷(いは・ふゆう)です。二代目館長はやはり沖縄学のパイオニアとして伊波らと共に活躍した真境名安興(まじきな・あんこう)で、この昭和4年版の郷土史料目録は、真境名館長時代に作成されました。 
 戦前の郷土資料目録はこの昭和4年版のほかに、大正13年版が現存しています。大正13年版は昭和4年版と比較することにより県立図書館の資料収集の歴史を知る貴重な資料です。昭和4年版の目録については今後、県立図書館で現在所蔵している資料と詳細に照らし合わせることがますます重要な作業となってくるでしょう。失われた郷土資料をより精確に把握することは、今後の郷土資料の収集の指針の一つとなりますし、また失われた資料を探求することで、それらがどこかで出現する可能性があるからです。その際に大正13年版は、この昭和4年版の内容の誤記などを訂正する際に大きな役割を担うでしょう。こうして考えてみると、これらの郷土資料目録が現存していることには計り知れない価値があります。ちなみにこれらの郷土資料目録もまた、戦後に市民らから寄贈されたものなのです。

(鶴田大)

参考文献・調査ノート

(参考文献)
『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社 1981年刊) ※項目「県立図書館」「沖縄県立沖縄図書館」など参照。
『沖縄県立図書館100周年記念誌』(沖縄県立図書館 2010年刊)
ほか

(調査ノート)
○原タイトルには「郷土志料」とあります。志は誌のことで、戦前頃までは同様に使用されていました。また、音が同じであることから、「資」「史」の意味を含むこともあり、この目録についても「資料」「史料」の意味合いが含まれています。
○表紙などに川平朝申(かびら・ちょうしん)の署名や朱印があります。また表紙裏には「ジョージ・カー氏より目録編集の時、譲り受く 比嘉春潮(ひが・しゅんちょう)」と書き込みがあります。この資料が比嘉春潮文庫(≒春潮による寄贈資料)であることと、こうした記述を考え合わせると、この資料が元・川平氏の蔵書で、それがジョージ・H・カー~比嘉春潮へと渡り、県立図書館へ寄贈されたことがわかります。春潮の書き込みにある「目録編集」が何を意味するか詳細は不明ですが、戦後に『琉球の歴史』(1956年)を著作したジョージ・H・カーが琉球・沖縄史を調査・研究する際に春潮に協力を求めた際のことかと考えられます。川平は戦前~戦後にかけて行政・放送・児童教育・郷土文化振興などに活躍した人物です。ジョージ・カーは戦前は台湾で教員を勤める一方で政治活動を行い、戦後は『琉球の歴史』などを著作したことで知られる人物です。
○この資料の末尾には昭和3年と年記がある簡易な資料目録が合本(がっぽん)されています。おそらく「郷土志料目録」作成のための予備調査をまとめたものと見られます。資料の分類も図書館の正式な分類にはよらず、簡易に「明治以前」「明治期」「昭和以降」などの分類により一覧が作成されています。
○この資料目録には掲載がありませんが、戦後、生物学者のスタンレー・ベネット氏により寄贈された『本草質問(ほんぞう・しつもん)』は蔵書印から、戦前に県立図書館に所蔵されていた本と見られています。『本草質問』は幕末に薩摩藩によって刊行された『質問本草』の編集途中の本を筆写した貴重な本です。『質問本草』は薩摩藩・琉球・清朝(しんちょう)中国が協同して内容作成した本草学(植物の薬効を研究する学問)の図譜集です。現在のところ、現存する戦前の県立図書館の所蔵本の唯一の本とみられます。今後、詳細な調査が期待されます。

(鶴田大)
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