王夢樓詩鈔 乾(巻1) (おうむろうししょう)

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概要・解説文

 王文治(生没年不明)は 清朝(しんちょう)中国を代表する文人(ぶんじん)として知られています。音楽、詩、書など様々な文芸にすぐれていたと云われています。また王文治は中国からの琉球王国への外交使節(冊封使節 さっぽうしせつ)の一員として1756年に来琉していることで、沖縄では特に親しまれています。このときの冊封使節は、尚穆王(しょう・ぼく・おう)が王位に就くことを認め、祝うために中国皇帝から派遣されたもので、全魁(ぜんかい)を正使として、王文治は全魁の従客(じゅうきゃく≒正使の補佐役。和やかな外交を補佐する文芸にすぐれた人物が選ばれる。)として来琉しました。沖縄には当時、王文治が残したとされる文物(ぶんぶつ)を含め多くの詩文・書作品が県立博物館などに所蔵されています。

 明治期の日本では西欧文明の波が押し寄せる中で、清朝中国の漢詩が特に流行するという不思議な現象がみられました。懐古的な、あるいは「東洋人」である自分たちの自己認識への欲求ともみられています。この詩集もそうした流れの中で1881 (明治14) 年に日本で刊行されたものです。1795 (乾隆(けんりゅう)60) 年に中国で刊行された王文治の詩集『王夢楼詩集』(全24巻)の中から代表的な作品を選んで二冊本として再編集したものです。夢楼というのは王文治の雅号(≒ペンネーム)です。またタイトルにある「鈔(しょう)」は「抄」と同様で、一部を抜粋したダイジェスト版というような意味です。編集を行った宍戸逸郎は漢学者とみられますが詳細は不明です。
 この詩集では絶句(ぜっく≒五字または七字を四つ連ねて表現される漢詩文。五言絶句、七言絶句。)を集めて二冊分になっています。『王夢楼詩集』(全24巻)の第2巻の「海天遊草(かいてんゆうそう)」という章では1756年の来琉の際に詠まれた漢詩文が集められていますが、この『王夢楼詩鈔』にも「海天遊草」から採られた漢詩文が数篇、収録されています。

 乾坤(≒天地というような意味。二巻本の上・下巻をそれぞれ乾・坤と表すことはよく行われてきた。)の乾巻(上巻)である本冊には、先に述べた「海天遊草」から数篇の絶句が収録されています。その中の「円覚寺題壁(えんがくじのかべにだいす)」という詩は次のようなものです。

 「王家宮殿鎖雲深。日暮軽烟暈緑陰。松檜乍疑雷雨響。鐘魚斎作水龍吟。」
(首里城一帯は雲をまとって周囲から深くとざされている。日が暮れてゆくにつれ、けむったような大気が青々とした木々の陰となった場所をぼかしていく。常緑樹の松やヒノキが風を受けて、にわかに雷雨のような響きをたて私を驚かせる。円覚寺の鐘と木魚の音がそろって水龍吟(すいりゅうぎん)の詩を詠ずる。)

 王文治は「私の詩や書は皆、禅理(禅宗の教え)の中にある」と云ったと伝えられています。首里・円覚寺はまさに禅宗の寺院。夢楼ならではの情景描写のように感じられます。

(鶴田 大)

参考文献・調査ノート

(参考文献)
・『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社 1983年刊)
 ※「王文治」「夢楼詩集」ほか各項参照。
・『沖縄県文化財調査報告書44 扁額・聯等遺品調査報告書』(沖縄県教育委員会・編 1983年刊) ※王文治の書をその詩と共に図版で鑑賞できる。
・『未公開資料による 琉球王朝の書画』(池宮正治ほか執筆 観宝堂 1992年刊)
 ※王文治の書による木製の聯(れん≒漢詩などを記した一対の細長い木製の飾り板)の図版が掲載されている。
・『中国書人名鑑』(鈴木洋保ほか編 二玄社 2007年刊)
・『大漢和辞典』(諸橋轍次ほか編 大修館書店 2000年刊)
・「明治期における清詩の流行について」(水津有理 2007年)
(web版雑誌 「「対話と深化」の次世代女性リーダーの育成 : 「魅力ある大学院教育」イニシアティブ」 お茶の水女子大学「魅力ある大学院教育」イニシアティブ人社系事務局 2007年3月10日 発行 に収録。)
→http://hdl.handle.net/10083/3473http://teapot.lib.ocha.ac.jp/ocha/bitstream/10083/3473/1/P286-289.pdf#search='%E7%8E%8B%E5%A4%A2%E6%A5%BC%E8%A9%A9%E9%9B%86'
・『琉球国志略』(周煌 著 原田禹雄 訳 榕樹書林 2003年刊)
 ※王文治が直接登場するわけではないが、王文治が琉球を訪れた際の冊封使節の副使、周煌が記した旅行記であり、王文治が体験した当時の琉球王国の様子を味わうことができる。


(調査ノート)
・沖縄県立図書館にはこの本のほかに、『王夢楼詩集』(写本 四巻分のみ)が所蔵されている。
・宮内庁図書寮に『夢楼詩集』(全24巻 1795年刊)が所蔵されている。
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