絵本琉球軍記 初編 巻之9 (えほんりゅうきゅうぐんき)

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概要・解説文

『絵本豊臣琉球軍記』前編 第9巻 (前・後編 全20巻) 解説

 

 こうした「軍記もの」は蘭学(らんがく=オランダ~長崎出島から入るヨーロッパの天文地理・科学技術の情報)に関する本と共に、江戸時代の人々に人気だったようです。「鎖国」と呼ばれる時代において、人々は平和と共に閉塞感を感じていて、「軍記もの」や蘭学に非日常的な解放感を感じていたのでしょう。
 また、全20巻(冊)のこの本が刊行された1834~1864年は、武装した外国船が日本沿岸へ次々とやって来ていて「開国」から明治維新へと向かう時代でしたから、人々は現実的な脅威や新たな時代への期待と共にこの本を読んでいたのかも知れません。

 

 この本の内容は1609年の薩摩藩(=島津家)による琉球侵攻をもとにしたフィクションです。『島津琉球軍精記』(→資料ID1002001517ほか)にふんだんな挿絵と脚色を加えて作成された本で、時代設定は鎌倉時代となっており、鎌倉将軍の命を受けて島津忠久(ただひさ=島津家の祖)が琉球を征伐するという物語です。登場人物の名前や地名の多くも架空のものです。
 「征伐」する正当性の根拠として、琉球は本来、朝鮮に従属する立場でありながら十分な外交儀礼を行っておらず、しかも琉球王はぜいたくで乱れた政治をしている、ということが挙げられています。また、実際の琉球侵攻は、圧倒的な薩摩軍勢が沖縄本島上陸後、わずか一週間ほどで決着しましたが、この物語では延々と薩摩・琉球両軍の戦いが繰り広げられます。

 

 この本には、ほぼ同内容で異なる題名・刊行者の本が数多く知られており、刊行状況の複雑さが推定されています。県立図書館収蔵の『絵本琉球軍記』(「初編」全10冊→資料ID1001984887ほか)はこの本の前半の10冊分とほぼ同じ内容で、本文部分の版木(はんぎ)は同一です。『絵本琉球軍記』がこれらの本の標準的な題名で、多種多様な「琉球軍記もの」の中で唯一、刊行された本としても知られます。
 題名に入っている「豊臣」は豊臣秀吉のことですが、本の内容には直接関係ありません。しかし、薩摩藩の琉球侵攻に先立って秀吉は朝鮮侵攻(1592,1597年)を行っており、江戸時代の人々は薩摩藩の琉球侵攻を秀吉の朝鮮侵攻に連なるものとみていた、と考えられています。また広く読まれた秀吉一代記である『絵本 太閤記(たいこうき)』(1797年刊)の広い影響も知られています。画家・岡田玉山(ぎょくざん)は両方の本に絵を描いていますし、本文の類似箇所も指摘されています(→参考文献3)。

 

 この前編・第9巻では、薩摩軍の総大将・仁木勝氏(にき・かつうじ)らが戦略を練って、琉球の実力者・徐晟(じょ・せい)を討ちます。このあと勝氏はこれまでの戦果を首帳(くび・ちょう)に記します。首帳を元にした、戦さのあとの論功行賞(ろんこう・こうしょう=参戦した者たちに働きに応じた褒美を与えること)は非常に大事なことでした。

(鶴田大)

参考文献・調査ノート

(参考文献)
1.『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス 1981年) ※項目「薩摩浸入」「島津氏」「島津義久」ほか
2.『国史大辞典』(吉川弘文館 1997年)
3.『異国征伐戦記の世界』(金時徳(キム・シドク) 笠間書院 2010年) ※第2章第3節
4.『「鎖国」という外交』(ロナルド・トビ  小学館 2008年)
5.『島津氏の琉球侵略』(上原兼善 榕樹書林 2009年)
6.『琉球軍記・薩琉軍談』(山下文武 南方新社 2007年)
7.『江戸期琉球物資料集覧』(本邦書籍 1981年)
ほか

(鶴田大)

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