大島筆記 [写本] 全 (おおしまひっき)

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概要・解説文

戸部良熙(とべ・よしひろ) 編著『大島筆記(おおしまひっき)』(写本) 解説


 1762年、薩摩へ向かった琉球船が漂流し土佐(高知県) にたどり着きました。その際、潮平親雲上(しおひら・ぺーちん)ら琉球王府の要職にあった人たちから、琉球に関する話を土佐藩の戸部良熙が聞き取ったのが『大島筆記』です。この本は著者である戸部良熙自身が書いた原本(所在不明) ではなく、比較的古い時代に筆写された写本(しゃほん)です。江戸時代には刊行された様子がなく、写本が複数伝わっていて、それぞれ内容が少しづつ異なるようです。この本も朱筆の書き込みがあり、おそらく唯一の内容を伝える本として、とても貴重な本と見られます。大島というのは、琉球船が漂着した土佐湾内の地名です。

 

 むかしから海の漂流者らは、世界史的に重要な情報交換の役割を果たしてきました。土佐(=高知県) の漁師だったジョン万次郎は、嵐のため漂流した末にアメリカ船に救助され、その長年アメリカに滞在し、帰国後はペリーによる日本開国に際し幕府役人として大きな役割を果たしました。伊勢(=三重県) の船頭だった大黒屋光太夫(だいこくや・こうだゆう) は漂流の末、当時のロシアに救助され9年以上の滞在ののち帰国し、幕末日本の蘭学(らんがく=最新のヨーロッパ科学) 研究に大きな役割を果たしています。

 

 「大島筆記」には当時の琉球王国・日本(大和文化圏) の記録類のどこにもみられない記述が多いことでも知られています。
 例えば、琉球語(=うちなーぐち) は、当時の日本語(=やまとぐち)と同じグループの言語であるにもかかわらず「琉球の多くの文人らにとって和歌(=当時の日本の公式文学) は漢詩より遙かに難しい」と潮平親雲上らは率直に述べています。そこでは、或る人が和歌の練習のため、中国でも贈られた布の返礼に和歌を詠んだが、それを中国語に訳すと中国人にも思いが通じたという風変わりなエピソードまで紹介されています。(下巻の「雑話 上」)

 

 琉球と当時の日本(大和文化圏) とは正式に交流もあったわけですが、やはり正式の外交使節が公的な立場で話す内容と、このようなイレギュラーな立場で話す内容は自然と変わるのでしょう。この他にも琉球の人々にとっては日常的過ぎて記録しないような内容が数多く記述されていて貴重な資料となっています。歴史家・比嘉春潮(ひが・しゅんちょう)は「十八世紀版『沖縄白書』というべきもの」と述べています。

(鶴田大)

参考文献・調査ノート

(参考文献)
『日本庶民生活史料集成 1』(三一書房 1968年) ※全文が注釈付きで掲載あり。
横山學「琉球国船漂流記録「大島筆記」諸本の研究」
(ノートルダム清心女子大学「生活文化研究所年報」第11輯 )   ほか

 

(調査ノート)
・江戸時代に版行された様子はなく、写本として流通したものとみられる。
木村蒹葭堂(きむら・けんかどう1736-1802) による筆写本(内閣文庫)をはじめ、鹿児島県立図書館、高知県立図書館、京都大学、ハワイ大学などに写本が収蔵されていて書写内容はそれぞれ微妙に異なるとされる。
・士族らに聞き取りを行ったこの「大島筆記」は王府周辺の当時の社会状況を知らせるもので、農村や庶民の暮らしを精確に伝えるものでないことには注意する必要がある。
・「公相君(こうしょうくん)」という中国から琉球を訪門した人物について記されていることも注目されている。記述の内容から空手の元となる武術を体得していた人物とみられるからで、琉球発祥とされる「空手」のルーツを知る手がかりとも考えられている。
・明治20年代になるが、王府時代以来の庶民の暮らしを伝える資料としては笹森儀助(ささもり・ぎすけ) による『南島探検』などが知られる。

 

(鶴田大)

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