湧田井碑(表) [拓本] (わくだがーのひ おもて)

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概要・解説文

『湧田井碑(わくた・ガーのひ)』(表) 拓本(たくほん) 解説

 この石碑は、通称「新井(ミーガー)」とも呼ばれる、1860年に作られた井戸の横に1865年に設置されたものです。那覇の泉崎(いずみざき)にありましたが、沖縄戦(1945年)で井戸と共に失われました。

 拓本により本文が判明しますが、表面の文章にはこの井戸について、「従来使用していた井戸の水量が不足したため、久米村の士族らに相談して新たに作ったもので、中国からの冊封使節(さっぽうしせつ=外交使節)を迎える際にも使用する重要な井戸だから大切に使わなければならないものだ」ということが詳しく書かれています。また裏面(→資料ID1001999182)には、井戸の使用に関する取り締まり規則が詳しく書かれています。
 この石碑は表面・裏面ともに漢字仮名交じり文で書かれていますが、こうした点は琉球王国時代の碑文や公式文書にみられる特色とされています。(※当時の「日本」では石碑などは漢文で記されることが多かったようです。)

 先述のように石碑自体は沖縄戦で失われましたが、この拓本がその姿を今日に伝えています。表面の文章の上部にある日輪(にちりん=太陽)や雲の文様は優れた美術品として知られており、またこうした文様の時代変遷を知る手がかりとしても重要なものとなっています。

 ところで拓本というと単なる転写物のように考えられがちですが、歴史的には史料として美術品として重要な役割を果たしてきました。それは一つには原本(げんぽん)である書額(しょがく)や石碑では見えづらい筆使いやかたちをはっきりとみることができること、もう一つには原本そのものが失われてしまうことが多かったからです。すぐれた書の拓本は、書のお手本としても大切にされ、また鑑賞用に掛け軸にされたり法帖(ほうぢょう=書法のお手本を集めた本)にされたりしました。
 
 この拓本は歴史学者・東恩納寛惇(ひがしおんな・かんじゅん)旧蔵のものです。寛惇の著述(※全集9, p349)によると彼は、朝鮮で採拓技法を習得した久場政用(くば・せいよう)に依頼して「旧琉球の文化遺産たる金石文(きんせきもん=木や石や金属に刻まれた文)のほとんど全部」の拓本を収集したということです。
 これらの拓本は、戦争などで破壊された石碑などの復元事業や歴史研究にとても大きな役割を果たしています。

(鶴田大)

参考文献・調査ノート

(参考文献)
『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社刊 1981年) ※項目「湧田井の碑」など参照。
『東恩納寛惇全集』7,9(第一書房 1981年刊)
『石碑復元計画調査報告書』(那覇市 2004年刊) 
『刻まれた歴史 沖縄の石碑と拓本』(沖縄県立博物館 1996年刊)
『首里城正殿の鐘と墨絵「光と影の世界」』(小島瓔禮・金城美智子 著 沖縄総合図書 1991年刊)
『書の総合事典』(柏書房 2010年刊)
ほか

(鶴田大)
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